Wish Upon a Star〝星に願いを〟第三十二話
あれ?
私って今まで...?
ここはどこ?
「マリア!カイくんが来たわよ!」
誰?
カイ...?
...あぁ、思い出した。
「マリア?」
そうか、この人は母さんか。
「私」の記憶よりも老けていて分からなかった。
「私」の記憶は8歳で途切れていたけど、私はもう15歳だ。
「私」の記憶によれば、カイもすっかりイケメンに成長している。
「今行くー!」
そして玄関を見るとカイくんがいた。
「私」と「私」がだいぶ馴染んできたみたいで今度は違和感を感じなかった。
「大変だマリア!スイが、スイが!」
「スイが?」
「し、しし、失踪した!」
「捜してくる!」
「マリア!」
走ろうとしたところを止められた。
「町の人も総出で捜してるから、北の森から湖の辺りを捜してって」
「分かった!」
私は必死で木々の間を走り、声を上げた。
でも、私はいつの間にか、知らない場所に出ていて、くらい、くらい沼の底に引き摺り込まれる感覚がした。
あっと言う間に首まで沼に漬かり、手を伸ばして助けを乞うも誰にも届かず、意識は途切れた。
Wish Upon a Star“星に願いを„第三十一話【紅水仙】
「今日は、ありがとうございました。」
「えぇ、暗いので気を付けてくんなまし。」
私はぺこりとお辞儀をすると、踵を返した。辛そうなライラさんを、これ以上見たくなかったから。ゆっくりと、夜道を歩く。ひっそりとした、月夜。
・・・違和感を覚えるほど、静かだと気付いた。
「・・・だれか、いるの?」
なぜか、そう声をかけずにはいられなくなった。もちろん、返事は帰ってこない。
けれど確実に、そこに、なにか“いる”。背筋が、ひやりとする。
「ねぇ、だれ?お父さん?お母さん?・・・ねぇってば!」
常闇の森に、悲痛な声がこだました。けれどまだ、何も反応がない。私は怖くなって、逃げ出した。暗いから、右も左も、今の自分の位置さえも分からなかったけど、とにかく走った。
*
*
*
だいぶ走った。けど
「まだ、ついてきている?」
足音はしていない。心音も、息が切れる音も聞こえてこない。なのに、そこに“いる”。
「ひっ・・・。」
恐怖心が、だんだんと大きくなる。めまいがして、その場にへたり込む。その時はコマ送りの景色をただ、眺めることしかできなかった。
「だれか・・・助けて・・・・・・。」
襲ってくる闇に、飲み込まれていくのを感じながら、私は意識を手放した。
Wish Upon a Star〝星に願いを〟第三十話
「こんな場所しか用意できなかったのだけれど、何か飲みたいものがあったら言ってくれて構いませんわ」
「あ、大丈夫です。」
「まぁ、お茶は持ってくるわね。」
ライラさんは厨房から茶葉を少しとカップを二つ持ってきた。
茶葉をケトルの専用の箱に入れて、出した時には綺麗な色をした紅茶が出てきた。
「す、凄い。」
「水と火の魔法ですわね。魔法だったら美味しいお茶を早く飲みたいと願えばできますわ。」
「私、魔法はからっきしなので...」
「風の精霊様、音の精霊様、私と共に歌いましょう。
今ここにいる私達だけで。」
「それは?」
「防音結界の魔法ですわ。
それで、エマ・ピック・ロールのことですけれど。」
私はどきりとした。
「エマ・ピック・ロールは、一応クラスに籍を置いているので、書類上は貴女のクラスメートですわ。
ですが、私達の学校に通うことは許されていませんの。
フラワー先生が把握されていないのは、エマや、ロール家の方々の魔法ですわ。」
「なぜ、許されてないんですか?」
「家の事情、としか言えませんわ。ただ、術式という門外不出の妖術を持っている以上、家としては他人と交流を持たせたくなかった。
でも、気付いているかもしれませんが、私、侯爵家の血を引いていますの。
ロール男爵家の四女、エマは懇意にしてもらっている侯爵家に、有能な子供ができたのを嗅ぎ付けて送り込まれた。」
「じゃあ、ライラさんの本当のお父さんは...」
「不本意ながら、想像の通りです。
下手に魔力が高かったから、他の子と違って接触があった。
社交界では、有名な話ですわ。
まぁ、非公認ではありますけれど。」
「でも、どうしてそんなこと?」
「あれは私のことなど、ちょうど良い駒とか、玩具とか、思っていますわ。いざとなれば自分の子供として認知できるし、切り捨てもできる。
...だから、私は好きな人と結ばれたかった。持てる力を振り絞って。
カイ君と結ばれたら、忌々しい束縛から逃れられる。」
私は何も言うことができなかった。
「少々お喋りが過ぎましたわ。
...エマ・ピック・ロールは実在します。
公爵級の権力になんらかの理由で術式の存在がバレて、利権を守るためにロール家は追われることとなったのでしょう。
私はエマほど術式を使えませんが、貴女はエマと同等以上に術式を使えると聞いていますの。
気をつけて。」
そう言ったライラさんの表情は、私以上に心痛を抱えているとしか思えなかった。
Wish Upon a Star“星に願いを„第二十九話【紅水仙】
あれから私は、すぐ教室に戻った。教室に入ると、カイ達が駆け寄ってきた。心配してくれてたみたい。
「無事か、マリア!?」
「逆にこれで有事なわけがないよね。ただ校長室に呼ばれただけだよ、大丈夫。」
そこで私は、ハッとした。エマさんは。
「ねぇ皆、エマさんって知ってる?」
「「「エマ?」」」
三人は声をそろえて、お互いの顔を見た。そして、首を振った。三人とも。
「え・・・他のクラスとかでも、いない?」
「僕、他クラスの人全員知ってるけど、そんな人聞いたこともないよ。」
どういうこと?まさか他学年・・・。待って私。エマさんは私の【クラスメイト】って言ってたよね。
なのに、クラスにいない。ここに、いない。つまり・・・。
「エマ・ピック・ロールは存在しない人物?」
「もう少し静かにしていてくださる?読書の邪魔ですわ。」
振り返ると、そこにライラさんが立っていた。そうだ、エマさんはライラさんの【忠実なる下僕】とも言ってた!ということは、この人に聞けば・・・。
「マリア。」
いつも涼しげな表情をしているライラさんが、今日はいつもより青ざめて見えた。
「あなたに、話さなくてはいけないことがあるようですわ。」
「おい、またマリアに何かするようならただじゃ・・・!」
「一時休戦です。」
カイにはいつも猫なで声を出していたライラさんだけど、今は冷たく言い放った。やっぱりいつものライラさんじゃない。様子がおかしい。ライラ様は、私の耳元で、こう囁いた。
「とにかく今日、私の家へ来てください。」
_エマ・ピック・ロールについて、教えてあげますわ。
最後の言葉は、カイ達に聞こえないくらい小さな声で。「また後で。」といい、ひらひらと手を振って、ライラさんは席に行った。
エマさん、あなたは一体何者なの?
Wish Upon a Star〝星に願いを〟第二十八話
でも、ここで正直に言ってもいいのかな?
エマちゃんは秘伝って言ってたけど...
「これは、俗に云う精霊様に命令ができる魔力の籠った記号のようなものらしい。
精霊様はそれぞれの意思で魔法行使を拒否できるが、これは、なんでもできる、精霊様を強制できる魔法なのだ。
だからこそ、何故君が使えたのか聞きたいのだよ。
別に、今回見つかったものが悪意のあるものでないことは確認されているから、安心したまえ。」
エマちゃん...
「や、やっと繋がった...校長に問い詰められてるでしょ?出来れば言わないで欲しいんだけど。」
え、頭に直接声が...?
「〝通信〟って術式。声だけじゃなくて文字も伝えられるの。」
でも、どうすれば...この状況
「魔法が使えないのは意外と周知の事実だから、自分で編み出したーとかよ。
別に、私を売りたいなら売れば良いわ。
私とマリアは絶交になるけど。」
そ、そんな恩知らずな事は出来ない...
「で、どうなのかね?」
「そ、その...魔法が使えないから、これを、編み出したんです」
「やはり、マリアさんは優秀ですな...でも、もう使わないでくれたまえ、我々も上から責任を問われますからな。
もう良いですよ、気をつけて帰って下さいよ。」
「失礼しました。」
な、なんとか切り抜けた。
「ふう、お兄ちゃんが悪い貴族に術式を見られてこんなことになっちゃったらしいのよね、ごめんね、迷惑かけて。」
「うん...でも、ありがとね、術式を教えてくれて。秘伝、なんだよね?」
「ライラ様にお願いされたら断れないわよ。ライラ様は命令はなさらないけど、お願いだって断れないに決まってるじゃない。
...でも、これから、うちの家の厄介事に巻き込まれるかもしれないわ、覚悟しときなさい、術式の代償よ。」
Wish Upon a Star“星に願いを„第二十七話【紅水仙】
後日、私はなぜか校長室に呼ばれた。
「あの・・・。なんで私が呼ばれたんですか?」
「実はだね・・・。」
そういい、校長先生は私の担任の先生___フラワー先生のことを横目で見た。フラワー先生は、気まずそうな顔をして黙っている。
「昨日のテストの事なんだか、こんなものを見つけた。」
そういい、校長先生が渡したくれた絵?には、昨日私が書いた“避雷”の文字が。
「それがどうしたんですか?」
「これは、禁忌の魔法だ。」
え。
「きん・・・き・・・・・・?」
「そうだ。魔力のないものが唯一使える魔法だが、これを使えばどんなことでもできてしまう。そのため、つい最近だが禁止になった。」
え、ちょっと待って、どういうこと?
「え、え?私、そんなの知らなくて・・・。」
「大丈夫、私たちもそれはわかっている。だから今回君には、これをどこで知ったのかを教えてほしい。」
・・・どうしよう、困ったな。
Wish Upon a Star〝星に願いを〟第二十六話
「ちょ、ちょちょちょ、ヤン、速いよー!」
「これ位は出来ないと...」
「前!」
「うわ!...ぁぶない、また落ちる所だった」
「やっぱ一緒に飛ばないと駄目じゃん。」
「むぅ」
あれ?思ったより雷雲近くない?
「ちょっと待って!」
術式術式!
用意したメモに〝避雷〟と書く。
この術式は教わってないけど、何故だか最初から知っていた気がする。
「何書いてるの?...って雷!」
すぐ近くの木に向かって雷が落ちた。
「か、かみなりさまよー、どうか怒りを鎮めたまえー!」
ヤンは魔法で回避している。
この調子なら課題通り隣町の空を一週できそう。
「もう少し高く飛ぶ?」
「この雷よけながら障害物はよけられないや。あとマリア5人分位高くするよ」
6メートル位ね...あれ?最近意味不明な事を思い出す気がする。
いや、ずっと昔から。
「おーい!早くー!」
「今行くー!」
そんなこんなで隣町の空を一週して帰って来た。
「大丈夫かしら?」
先生はハラハラしながら使い魔の目を借りていた。
「やっぱり、マリアさんの飛行魔法は魔法とは違うのね。
」
何かを紙に書き付けていた。
「本当に大丈夫かしら?」
先生の心配をよそにずぶ濡れの二人が帰って来た。
「い、一応二人とも合格です。でも、すぐに着替えて風邪をひかないようにしてくださいね。」
「「はーい」」
二人は、先生が雷雲の中を突っ込んだ二人を心配して用意したタオルで体を拭き、二人の親から借りてきた着替えに着替える。
「へっくしゅん」
それでもヤンは風邪をひいた。