Wish Upon a Star〝星に願いを〟第三十話
「こんな場所しか用意できなかったのだけれど、何か飲みたいものがあったら言ってくれて構いませんわ」
「あ、大丈夫です。」
「まぁ、お茶は持ってくるわね。」
ライラさんは厨房から茶葉を少しとカップを二つ持ってきた。
茶葉をケトルの専用の箱に入れて、出した時には綺麗な色をした紅茶が出てきた。
「す、凄い。」
「水と火の魔法ですわね。魔法だったら美味しいお茶を早く飲みたいと願えばできますわ。」
「私、魔法はからっきしなので...」
「風の精霊様、音の精霊様、私と共に歌いましょう。
今ここにいる私達だけで。」
「それは?」
「防音結界の魔法ですわ。
それで、エマ・ピック・ロールのことですけれど。」
私はどきりとした。
「エマ・ピック・ロールは、一応クラスに籍を置いているので、書類上は貴女のクラスメートですわ。
ですが、私達の学校に通うことは許されていませんの。
フラワー先生が把握されていないのは、エマや、ロール家の方々の魔法ですわ。」
「なぜ、許されてないんですか?」
「家の事情、としか言えませんわ。ただ、術式という門外不出の妖術を持っている以上、家としては他人と交流を持たせたくなかった。
でも、気付いているかもしれませんが、私、侯爵家の血を引いていますの。
ロール男爵家の四女、エマは懇意にしてもらっている侯爵家に、有能な子供ができたのを嗅ぎ付けて送り込まれた。」
「じゃあ、ライラさんの本当のお父さんは...」
「不本意ながら、想像の通りです。
下手に魔力が高かったから、他の子と違って接触があった。
社交界では、有名な話ですわ。
まぁ、非公認ではありますけれど。」
「でも、どうしてそんなこと?」
「あれは私のことなど、ちょうど良い駒とか、玩具とか、思っていますわ。いざとなれば自分の子供として認知できるし、切り捨てもできる。
...だから、私は好きな人と結ばれたかった。持てる力を振り絞って。
カイ君と結ばれたら、忌々しい束縛から逃れられる。」
私は何も言うことができなかった。
「少々お喋りが過ぎましたわ。
...エマ・ピック・ロールは実在します。
公爵級の権力になんらかの理由で術式の存在がバレて、利権を守るためにロール家は追われることとなったのでしょう。
私はエマほど術式を使えませんが、貴女はエマと同等以上に術式を使えると聞いていますの。
気をつけて。」
そう言ったライラさんの表情は、私以上に心痛を抱えているとしか思えなかった。