Wish Upon a Star“星に願いを„第三十一話【紅水仙】
「今日は、ありがとうございました。」
「えぇ、暗いので気を付けてくんなまし。」
私はぺこりとお辞儀をすると、踵を返した。辛そうなライラさんを、これ以上見たくなかったから。ゆっくりと、夜道を歩く。ひっそりとした、月夜。
・・・違和感を覚えるほど、静かだと気付いた。
「・・・だれか、いるの?」
なぜか、そう声をかけずにはいられなくなった。もちろん、返事は帰ってこない。
けれど確実に、そこに、なにか“いる”。背筋が、ひやりとする。
「ねぇ、だれ?お父さん?お母さん?・・・ねぇってば!」
常闇の森に、悲痛な声がこだました。けれどまだ、何も反応がない。私は怖くなって、逃げ出した。暗いから、右も左も、今の自分の位置さえも分からなかったけど、とにかく走った。
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だいぶ走った。けど
「まだ、ついてきている?」
足音はしていない。心音も、息が切れる音も聞こえてこない。なのに、そこに“いる”。
「ひっ・・・。」
恐怖心が、だんだんと大きくなる。めまいがして、その場にへたり込む。その時はコマ送りの景色をただ、眺めることしかできなかった。
「だれか・・・助けて・・・・・・。」
襲ってくる闇に、飲み込まれていくのを感じながら、私は意識を手放した。