Wish Upon a Star〝星に願いを〟第二十二話
「ま、マモノがいる!」
最初に叫んだのは窓の外をぼうっと眺めていた少女だった。
「うそ、目隠しの結界を張ってたのに...やるしかないわね。」
先生が車の外に出る。
「先生、大丈夫?マモノ、怖いよー。」
わーんと泣き出す子も多い。
...でも近づいてきてるからわかるけど、色使いがグロテスクなブタのぬいぐるみにしか見えないな。
「ただのオークですわね。先生、私も手伝わせていただきますわ。」
「ライラさん...では、万一に備え、私の結界の内側にもう一枚結界を張ってください。盾のようなイメージで。」
「わかりましたわ。」
すると先生の薄青の結界の内側に山吹色の結界が張られる。
「すごい、一瞬で張った結界を歌で強化してる。こんな使い方もあるんだ。」
「スイ、よくわかるなー。」
「精霊さんにあれなにって聞いたらそうだって。」
「スイは誰に聞いたら答えてくれるかとかもすぐわかるし、歌も上手くてすごいよね。」
「ありがと。でも、マリアには敵わない。」
「なっ!」
ライラが叫ぶ。
「増援ですわ...何かは分かりませんが、竜が、一匹。」
するとオークの首を生徒に見られないように落としてきたのか、袋から足が突き出ているオークを持った先生が浮上してきた。
「...精霊に嫌われし邪竜。勝ち目は無いわ。ライラさん、先生は足止めをするから、防御を頼みます。
それからスイさん、風の力でペガサスロードを作れますか?」
「できる。町まで来たら皆を降ろす。でも先生は?」
「生徒を護るのは先生の役目です...このクラスはこんなにも優秀な子達がいる。悔いは無いわ。」
「「「先生!」」」
クラス皆で先生と叫んだが、先生は聞こえていたかどうか、邪竜の方へ突っ込んで行った。
あのクラスならなんとかヴィレーヌまで辿り着けるだろう。
冷静でいて小手先を得意とするスイ。
場面をわきまえ、基本をしっかりと訓練するライラ。
魔法を使っているところを見たことは無いが、冷静なマリア。
ライラをサポートするのを得意とするエメラ。
この4人を軸にこのクラスは回って行けるだろう。
本当に優秀なクラスだ。
ここで死んでも悔いはない!
地の魔力で作った足場を力一杯蹴る。
目指すは邪竜。
神話の時代から滅多に姿を顕す事は無かったが、災厄を振り撒くとしてその姿は今でもはっきりと伝承されている。
「相手は私だ!私の生徒に手を出すな!」
邪竜は一瞬だけこちらを窺ったが再び車へと視線を移し、眼を光らせた。
あの子達が危ない!
思って振り返った時には邪竜は飛び去っていた。
尽き掛けている魔力を歌で増幅し、最後の力を振り絞って車へ飛ぶ。
私はペガサスに乗ったが最後、深い眠りの中へ誘われていった。
「先生が、帰って来た!」
スイが告げる。
「「先生!」」
「駄目ですわみなさん、先生はお疲れのようですわよ。」
神話に出てくる竜族のダークサイドの頂点と戦ったのだから当たり前だろう。
むしろ無事帰ってこれたのが奇跡だよ。
理解はしていてもやはり嬉しく泣いてしまった。
スイもライラも泣いているので、恐らくは似たようなものだろう。
町に着く頃には先生も起きていて、てんやわんやしながら遠足はおしまいとなった。