Wish Upon a Star“星に願いを„第五十二話【紅水仙】
よし、いったん今の状況を整理してみよう。
元々の私は星野涼音だ。日本で歌い手をやっていた。
そのあと事故に遭って死にかけ、この魔法の世界に到着。マリアとして、あっちの世界・・・つまり星野涼音と同じくらいの年齢まで過ごした。んで、さっき星野涼音になって、よくわからんとこ二か所行って、またマリアになって???よくわかんないなこの状況。
「マリア、危ない!!」
懐かしい声を聴いた瞬間、目の前に火花が散った。・・・ってこれ、ゴブリンの攻撃じゃんか。こんな高威力だったっけ????そして気が付いた。さっきの声の主がカイのものだということに。
「カイ!久しぶりじゃん!」
「?何言ってんだ?ずっとここまで一緒だっただろ。」
あ、待ってこれタイムパラドックス起きてんじゃんやーば。
とりあえず私は、神様・精霊様に丸投げすることにした。
Wish Upon a Star〝星に願いを〟第五十一話
「あれ?紅水仙さんは?」
すっと退出しちゃったのか、一瞬のうちに私は取り残された。
「おーい、誰かいませんかー?」
あっちから出ていってたよね?
「っ!弾かれた!」
そこには透明な膜があった。
いよいよ閉じ込められたらしい。
「どうしよう...あ!早速過ぎて申し訳ないけど、他に手はないよね...空飛んでた藤華さんよりも強い神様って...」
言ってて気がついた。持ってるは良いけど、使い方を知らない。
「誰かー!こ、ここから出してくださーい!」
「んー?...だれー?、
...え!誰!?記憶に無い人!」
「え、あの、貴方とは初対面だから知らないのに驚く必要は...」
「と、取り敢えず名前。私はリーネ。」
「えー...星野鈴音です。」
「ほ、ホシノ!?」
急にあわてたリーネさんは霧になって消えた。
しばらくして戻ってくると、よく分からない男の人を連れていた。
「あれ、君、うちの人間じゃん。
良かったよ。星野をあっちに出して。お蔭でリーネに呼んでもらえたからね。
いやー、藤華には悪いけど、君に無理矢理引き合わせたのは正解だった。」
「誰、ですか?」
「あ、俺は君の世界のー、神だッ!」
なにこのカッコ悪い人。こんな人が神とかちょっとやだ。
「神だから説明しよう、この世界は夢界。で、この世界の神がリーネだ。
そしてこの俺様、星野雅人がお前の世界の神だ!」
「...マサトさまー、騒がしくしないでー。
あとー、もうだいじょぶそーだからかえるー。
おやすみー...ふぁあ。」
リーネさんは欠伸をしながら霧になった。
「む、騒がしくするなと言われてしまった...
よし、聞こう。その鱗に免じてだ。
お前は前の世界で生活するか?お前の望む環境を用意しよう。
それとも...あそこ...あそこだ!...どこだっけ...ああ、マリアの世界に帰るか?」
「...そうですね。私はもうだいぶ歌っていません。
たとえあの時に戻ったとしても私は以前とは違います。
たとえ記憶を消されても、今の私はあの記憶がなくなるのは嫌です。」
「ふーん?じゃあ帰れるか知らないけど、他の神呼んでくるから待ってて。
送ってはくれるだろうから。
...あと、俺の世界にいるならその鱗持ってって良いけど、マリアの世界に行くなら持ってけないからな。」
「...じゃあ、その鱗はどうなるんですか?」
「うーん...その体は前みたいにとっとくから、死後聞きに来てよ。それまでその体と置いとくから。
大丈夫大丈夫、僕が悪ささせない。
だから君の体は十年近く無事だったでしょ?
バックアップを取るのは得意だから。
もう聞きたいことはないかい?」
「はい。もう思い付くことはありません。
...少し坂前さんが可哀想だけど。」
「俺の世界ではそんなこと無駄。
俺の世界はあらゆる選択肢を取ることができる世界だからね。
その代わり、俺の世界の中では良い選択肢も悪い選択肢も全部とる羽目になる。
...結局、月華が戻って喜ぶ坂前と、戻らない坂前がいることになる。」
「そうなんですか...わかりました、お願いします。」
「じゃ、ル...他の神呼んでくるね。」
雅人さんはふっと姿を消した。
10分位してやっと雅人さんが帰って来た。
「お待たせー。この子だよ。確か会ったって言ってなかったっけ?」
「雅人...あまり馴れ馴れしくするでない。
...マリアと呼ぼうか。目を閉じろ。」
ため息を吐いた後、何処かで見たような人が言ってきた。
目を閉じると、私はマリアだった。
Wish Upon a Star〝星に願いを〟五十話記念【特別編】
─月華と藤華 __なないろレイン
「...暇だなー。これからどうするかなんて、まだ何一つ決まってないし。
...ってあれ!?昔と声が変わってない!?
16年も眠っていたなら、私の声なんて変な事になってるはずなのに!?」
移された真夜中の病室で叫んだ鈴音に答える者は...
「ここ、どこ?なんでいつもと違う場所に出るの?そんなに杜撰なの?わざと?」
藤色の髪と瞳を持った、ワンピース姿の少女だった。
「...どちら様でしょうか?」
「えーっと...藤華って言います。貴女は?」
「星野鈴音です。」
「...藤華!?」
「...星野!?」
二人は同時に驚いたようだった。
「藤華って、華道の華ですか?」
月華に似た響きだったので思わず聞いてしまった。
「星野って、空にある星に、野原の野ですか?」
「「...はい」」
二人とも驚く。
「これは...確実に私がここに来たのは偶然じゃないね。」
偶然とはどのようなことか。
常人には理解できない。
「というか、どうやってここに来たんですか?」
月華は関係者以外は立ち入れない病院の個室に突如現れたということに今更ながら驚いて聞いた。
「...うーん、秘密。貴女の身の上に奇跡って、起こってない?」
「奇跡、ですか?...16年も、死んでいた状態?から、夕方に起きた所ですかね。」
「...もっと、何かない?それだけ?」
それも充分に奇跡と言えるものだが。
それは、月華にとって、自分の内面にあるものを話してくれないかと言われているように感じられた。
「...信じてもらえるか分からないんですけど、私には異世界の記憶があるんです。
おそらく、眠っていた頃の。
...変ですよね。きっと夢、です。」
夢と言う割には儚げな表情をしていた。
まるで、目の前の不思議な色の髪と瞳を持つ人ならば信じてくれると縋るような、でもそれはあり得ないと諦めているような。
「それは、夢じゃない。」
その胸中を汲んだのか汲んでないのか、藤華は言い切った。
「それは、貴女にとっての大切な思い出でしょう?
そして、この髪の色を見て懐かしんでる。」
「藤華さんって、何者なんですか?」
「...そうだね、放浪者とでも言えばいいかな。
様々な所を旅する流浪の身。
帰るべき故郷は、貴女達の想像を絶するほど遠い。
...そう、多分貴女の夢の中の世界よりも遠く。」
「...知ってるんですか?」
「それだけ私の故郷は僻地だってこと。
ここはそれなりに中心に近いはずだから、世界の隅も隅にある私の故郷よりはその世界は近いと思う。」
「何者、なんですか?」
「単なる旅の者...ああ、そろそろ帰ろうと思ったけれど、病院じゃあ危険だ。あのお方を捜さないと。」
「旅の人ならここには不慣れですよね?どなたをお探しですか?」
言ってから月華は気付いた、16年も眠っていた私に人探しなんかできるはずがないと。
「あー...ごめんなさい。多分大丈夫です。
少し帰るのは難しくて。」
言いながら藤華は窓に手をかける。
「な、なにするんですか!?」
窓枠に乗った状態から上を見上げ、ベランダもないところに降りた。
「帰るの。あまり鈴音さんの知り合いにバレちゃいけないし。」
「ま、待って下さい!」
藤華は降りたのにふわりと浮いている。
「私はこの世を旅する仙蛇。この世は寿命無いこの身にとっても広いもの。
あまり居座るべきじゃない。ましてや貴女にこうして出会えたならば、長居するのは更に良くない。」
そういって仙蛇だと言う藤華は、その髪と瞳の色さえなければ現代の少女なのに、どこかかぐや姫のような雰囲気があった。
「じゃあね、月華さん。もしも機会があれば、また会おう。
でももう、来ないだろうけどね
...そうだ、記念にこれ、あげるよ。」
そういって出したのは小さな藤色の巾着袋。
「大蛇の鱗...私の鱗だね。
でもきっと御守の代わりにはなるよ。
私は呼んだら来る、みたいな約束は出来ないけれど、私の気配が宿ってるから、とあるお方の助けが得られるかもしれない。
...私なんかよりもはるかに強い、神様のね。」
すると、月華が礼を言おうとするよりも速く、満月に向かって飛んで行った。
その影はすぐに見えなくなったが、月華はずっとずっとそれを見つめていた。
「自己紹介しないと出られない部屋」_紅水仙
待って、またなんかよくわかんないところに跳ばされた。うーん・・・ここは部屋だね。真っ白。ほかに何かあるとするのなら、知らない人が数名と、鍵のついたドア、その上になんの表示もされていない電光掲示板。
「まって、いやな予感がする。」
「気が付いたようね。」
紅い髪の女の人がいう。
「ここは・・・いえ、電光掲示板を見てもらった方がはやいわね。」
ほら、と言われたので上を見る。なになに・・・「『自己紹介しないと出られない部屋』?」
「だっっっさ。もう少しおもしろそうなネタはなかったわけ?」
水色の髪をした女の人が、つまらなそうに言う。
「いやいや、まずあなたたち誰なんですか?危ない人なら警察呼びますよ?!」
「危ないやつ!?どこにいるんだ?」
「お前だよバカ。」
今度は金髪と黒髪の男の人達が口々に言う。さっきから紫の髪と白髪の女の人達が一切話してないんだけど。ほんとなんなのこの六人・・・。
「とりあえず自己紹介しましょう。私の名前は月華。歌い手やってます。」
「あじゃあ、うちのそうびとおんなじだね~。」
「ちょっと藍はだまってて?」
赤と水色が漫才をしている。こわ。
「・・・紅水仙。花の色っていう小説ブログの作者よ。ちなみにファンタジー担当。」
「見た目赤髪だから、不良なのかと。」
「結構失礼ね、あなた。まぁ、さらっとほかの人も紹介して。」
「藍鈴蘭。恋愛小説担当。髪色は水色。」
「紫椿。シリアス担当。髪色は紫。」
「黒柊。アクション担当。髪色は黒。」
「白朝顔。ほのぼの担当。髪色は白。」
「黄山茶花。ホラー担当。髪色は黄色。」
「あまりにも端的にしすぎじゃないですか?」
「尺の都合上仕方ないのよ、月華ちゃん。」
「このうえなくメタい!大丈夫?読者の方々ついてきてる?」
「無理でしょ。」
「でしょうね!というか、話し方の癖が分からないからだれがだれかわからない!!」
「大丈夫、さっきから私・・・紅水仙と月華ちゃんしかいないから。」
「え?」
「扉開いたから、皆帰った。」
そういい、その人もすたすたと部屋を出ていく。
「本当になんなのよあの人たち・・・。」
「あそうだ、月華ちゃん。」
「なんですか?」
彼女は駆け寄ると、私の耳元で囁いた。
「また今度ね。」
「!!!!!絶対嫌です!」
「あはは、じゃーね。」
「よかったら、花の色や、なないろレインの投稿ものぞいてみてくださいね♪」
Wish Upon a Star“星に願いを„第四十九話【紅水仙】
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ピッ・・・ピッ・・・・・・
細切れな音が響き渡る。あれ、ここって・・・?
「先生!月華が・・・げっかが・・・・・・!!」
聞き馴染みのある声。どこか懐かしい、そんな声。
「さかまえ・・・さん?」
かなりやつれて、しわが増えていても、優しそうな眼もとを見ればわかる。坂前さんだ。
「そうだよ!月華、大丈夫?!痛いところは?!?!」
「とくに・・・ないかな。」
嘘。本当はものすごく体中が痛い。というか私は、あのとき死んだはずじゃ・・・?
「星野鈴音さんですね。あなた、運がいいですよ。」
担当医らしき先生が語り掛ける。
「運が・・・いい?」
「ええ。実はあなたは一回死んでいます。」
?
「えっと、何をおっしゃったのか理解できなかったのですが・・・。」
「戸惑うのも無理はないです。なぜなら、こんなことは奇跡に近い、いや、確実に奇跡なのですから。」
先生が興奮したように早口でしゃべる。
「月華・・・いいえ、鈴音。あなたは事故の後すぐに死んだの。だけど、病院についたとたん、息を吹き返したのよ!」
「まぁ、それから約十六年は経っていますがね。」
・・・え?
「十六年?」
私は、この十六年間ずっと眠っていた。だけど
カイ達と過ごした日常は絶対にあって、
ライバルとの衝突もちゃんとここにあって、
優しい第二の両親に愛されていた記憶もあって、
魔法を使った感覚もあって、
手の上の愛らしい小さな精霊も夢なんかじゃなくて。
「・・・急展開すぎるよね。とりあえず、今日は私は帰るから。また明日様子見に来るね。」
そそくさと病室を出る、坂前さんと先生の背中を見送る。
空が青い。この空の向こうで、カイたちは一体どうしているんだろう。
「もう一度だけ、会いたいな。」
精霊さんと二人きりの部屋に、小さなつぶやきが広がった。
Wish upon a Star〝星に願いを〟第四十八話
「...まぁ良いですわ。それよりも先に進む方が先決ですので。」
ねえ、スイを助けたらどうなるの?私。
怖いんだけど。
〝うーん、ここ、感覚が狂う。
主さまの力が不安定。〟
精霊様に聞こうと思ったら精霊様も感覚が狂う?
凄く不穏なフレーズなんだけど??
〝主さまの力が不安定でも僕たちの力は使える。
けど、主さまの力のもとでいつも力を使ってるから、主さまの力が及ばないと、難しいかも。〟
そして、精霊様が息を飲んだような雰囲気が伝わってくる。
〝...主さまの邪魔者。許さない。
主さまの力が及ばなければ僕たちの力が使えない。
だからこれ以上進んだら、僕は飛び回って情報収集位しか出来ない。〟
え!それってこのチート魔法が使えないってこと?
「...精霊様の気が不安定になりましたわ。
前までこのようなことは無かったですのに。」
一行はどんよりしながら進んでいく。
〝トニトルス程の権力者ならば、世界の綻びを見つけるのも出来る...危険〟
ねえ、精霊様は恐らくその、世界を守る存在で、主さまって人に仕えてるんでしょ?
世界を直したりできないの?
〝それは主さまの権能。それと、主さまは人じゃない!!〟
ふぅん。
なんか難しいんだな...
〝でも、世界に綻びなんて、おかしい。〟
うーん...いつになく精霊様がお喋り...
〝主さまが認めた人間。知識はあるに越したことない。
異世界から来た、主さまの寵愛を受けし者。〟
「...嫌な感じがしますわね。
でも、この先にスイがいますわ。
行きますわよ。」
三人は固く閉ざされた扉を開いた。
━━━そこにあった物は
Wish Upon a Star“星に願いを„第四十七話【紅水仙】
あれから「ちょっと席を外してくださる?」と言われて追い出され、かれこれ三十分。中から断末魔が聞こえてきています。
「女の子って怖いね。」
「マリアも女の子だろ。」
あきれたような、でもちょっと照れた声でカイが言う。うーん、たった数年で人は変わるもんだなー。
「…。」
エメラちゃんは、ずっと黙ってる。ゴブリンたちの悲鳴を聞いて、いろいろ思うところがあるらしい。
まぁ、つい半日前まで働いていたところを元君主にぶっ壊されてるからね。びっくりだよね。
「はぁ…。」
ため息をつくと、急に眠気が襲ってくる。
「え、おいマリア!?」
カイ…かな。誰かが私を呼ぶ声がする。
”あとちょっと“
…別の方向からも声が……。
”あと少しで元に戻るから“
”思い出して“
痛い。頭が、いたい。
”君の本当の名は“
「おい、マリア!しっかりしろ!!」
「あ、カイ。」
意識がスーッと戻ってくる。まるでどこか別の場所にいたみたいな疲労感。
「大丈夫か?」
「…なんか疲れてたみたい。ごめんね!」
そんな不安そうな顔しないでよ、カイ。
「本当か?お前まで居なくなったら、俺…。」
カイは今にも泣きだしそうな目で、声で、気持ちを紡ぐ。そしてゆっくり私の手を握った
__瞬間にダンジョンの扉がバンッと開く。
「抜け駆けは許しませんわよ?」
「は、はい…。」
その目は、本気だった。
Wish Upon a Star〝星に願いを〟第四十六話
ライラ様が扉を開ければゴブリン達がこちらを見た。
「ナゼ...お前が、ココに?」
偉そうなゴブリンが驚きに満ちた表情で言う。
「親友の一大事に駆けつけない私だとお思いで?」
「お前ら、カカレ!」
「ゴブリンごときにやられる私ではなくってよ!」
ライラ様は指先に小さな雷を作って目の前に飛ばした。
2メートル位先で龍のような形を取ってゴブリンの大群を睥睨する。
一瞬の後、雷鳴が轟いて目の前のゴブリンの大群はさっきのゴブリンを除いて地に倒れ伏した。
「あら、私が雷魔法が得意であること、知っていましたのね?
丁度良いですわ、親友の居場所を吐いて貰いますわよ?」
ゴブリンはケッケッケと下品に嗤う。
「お前、ソレしか、能がナイ!」
「仮にもゴブリンロードですからもっと賢いと思っていましたのに...
本当に愚かな事ですわね。
誰が雷魔法しか使えないと言ったのかしら?」
「ナッ...そんな威力デ...」
「本当に愚かなゴブリンですわね。驚いている暇があるのならさっさと私の親友の居場所を吐いた方が身のためだと思うのですけれども。」
「シラ、ナイ。」
ライラ様はついに黙った。
「シラ、ナイ。ダカラ、殺スナ!」
「私がそんな戯言を信じるとでもお思いですか?」
ライラ様は急に低い声を出した。
「仕方ありません、少しずつ焼いていきますか。」
ライラ様はゴブリンの足先に炎を放った。
「貴方はゴブリンですから魔法を使えない。
これで貴方は遅かれ早かれ火だるまになって死にます。
...さぁ、少しは話す気になったでしょう?」
ライラ様のサディスティックな笑みにゴブリンは負けた。