Wish Upon a Star“星に願いを„第四十五話【紅水仙】
”ここから、ものすごい魔力を感じるよ~!“
小さな穴の奥は、禍々しい色をした石壁に覆われている。
ものすごく入りたくない。
「…行きますわよ。」
全く物おじせずに、ライラさんが中に入っていく。女の子一人だと危険だから、とだけ言ってカイも続く。ちなみにエメラちゃんはというと、私の後ろで精霊様の檻の中にいる。
「…気を付けるのね。」
「わ、びっくりした!」
今までずっと黙っていたエメラちゃんが、口を開く。
「奴らはどんな手を使ってでも、ライラ…様を捕まようとしてくるのね。だから…。」
あ、今「様」付けなおしたよね?
少し、いやかなり、不安そうな顔をしたエメラちゃんに、私は優しく声をかける。
「大丈夫。ライラさんも、もちろんスイも、皆無事で帰れるから。」
「な、なんでそんなことを言い切れるのね!!」
張り詰めた声で、エメラちゃんは言う。その言葉に、私は笑って返した。
「だって、こんなに心強い仲間たちがいるんだよ?それに……。」
「それに?」
「私、今結構怒ってるから。」
Wish Upon a Star〝星に願いを〟第四十四話
もう怒った。
精霊様でもなんでも使ってやる!
〝魔王軍基地はあっち。スイまでの道案内はおまかせ。〟
聞かずとも教えてくれる。
「ライラ様、そっち落とし穴!」
「...危なかったですわね。 」
子供仕掛けみたいなトラップが多い。
ここはデコイかな?
〝ライラ、狙われてる。ゴブリン、いる。
だから、スイはここにいる。〟
でも、ライラ様はそれを覚悟してる。
止めるのは、間違ってる。
〝直進〟
〝右折〟
〝右折〟
ちょいちょいちょい、戻ってない?
「あら、戻ってきていませんこと?」
〝左折〟
〝直進〟
進んでいるのか居ないのか分からない道案内で進んでゆく。
...入り口の小さな洞窟があった。
Wish Upon a Star“星に願いを„第四十三話【紅水仙】
大粒の涙を流しながら、エメラちゃんは言った。
「僕だって、本当はこんなことしたくないんだね・・・。だけど、こうしないとみんな幸せになれないのね。だから・・・だから・・・・・・!!」
そんなことが・・・。いや、正直まだ私状況が分からないんだけど。
でもライラさんは何かを悟ったように、ゆっくり、ゆっくりと、エメラちゃんの近くに歩み寄った。そして、エメラちゃんの頭を撫でる。
「ええ、ええ。あなたはきっと、私たちを守ろうとしてくれたのよね。でも、大丈夫よ。」
そういうと、ライラさんはにこりと笑った。
「だって、私を誰だと思っているの。」
立ち上がったライラさんは、私たちを背にゆっくり歩きだした。
「ま、まって!ライラ様!!」
エメラちゃんの手が空を切った。それでも、ライラさんは歩き続けた。そして、少し離れたとき、ゆっくりと振り返った。
月光をバックに笑うライラさんは、まるで魔女のようにも、女神のようにも見えた。
Wish Upon a Star〝星に願いを〟第四十二話
エメラちゃんに、ほかに奪われるモノなんて、あるのだろうか?
それこそ、あれほど慕っていたライラ様を裏切るほどの。
「人質、いるのでしょう?暫く会っていないから誰だかは分からないのですけれど、助けて差し上げても良くってよ?」
「...!それは無理なんだね!」
意外な事を聞かれたようにエメラちゃんは瞳を見開く。
「だって、人質は...」
エメラちゃんは下を向いた。
「...人質は!」
その場の誰もがエメラを見つめる。
エメラはその場の誰にも聞き取れない声で呟いた。
エメラはそれを言うなり泣き出した。
Wish Upon a Star“星に願いを„第四十一話【紅水仙】
んー…どういうことかな?
「な、なんのことだかよくわからないのね。」
「こんな時にとぼけるのも、嘘が下手なのも…相変わらずね。」
「は、はぁぁぁぁぁあああああ!?」
炎をまとった髪を逆立てながら、エメラさんは叫んだ。ひきつった顔には、幾つもの青筋が。
「きっと、あなたは魔王軍に弱みを握られて、仕方なくやったのよね。だって…あなたの家族は魔王軍に殺されたのだから…。」
「うるさい…!」
「だけどあなたは優しいから、きっと、魔物たちとの共存を願った。」
「五月蠅いってば……。」
「だからこうして、人間と魔物の仲を引き裂く私たちが邪魔だった…。そうなんでしょう?」
「黙れ…黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇえええええええ!!!!!!」
ガルガルしながら八重歯をちらつかせるエメラさんを横目に、ライラさんは淡々と、しかしどこか優しさと寂しさを含んだ声でつづけた。
「だけどやっぱり、何もかもが大切なあなたは私たちを攻撃できなかった。だって、どこまでいっても、あなたはエメラード・トレイルだから。人間も、魔物も、どんなものにも愛を込める、優しい心のエメラード・トレイルだから。」
ライラさんがそういうと、憤怒で顔を真っ赤にしていたエメラさんが、急におとなしくなった。
「・・・そうだよ。」
とだけ言って。
Wish Upon a Star〝星に願いを〟第四十話
「な、何故浮遊が出来るのね!?無詠唱でそこまで出来る実力はお前には無いはずなのね!それに、さっきまでお前は僕の腕の中に!」
「精霊様のお導きのお陰だ。」
『今日からマリアの御付きになった精霊だよ!
聞きたいことがあったら聞いてね♪』
少しばかり精霊様にイラッとする。
『思ってる事当てるよ、何でカイが飛べるか。』
精霊様は人の心を読んで魔法を使うもんね、判って当然だよね、イラつくけど。
『主さまが、主人公には心強い味方が居なきゃって。』
さっきのじゃんけんか何かにはそんな意味もあったの...
心の中は溜め息が充満してるよ...
「一国の王女様に無礼だと思わなかったのか?エメラ。」
「新興国のお姫様よりも地位の高い人なんか、いくらでも居るんだね!」
永遠とも思えるような耳の痛い静寂がその場を支配する。
ライラ様が切なげに口を開いた。
「やっぱり、エメラは素直ですわね。」
エメラちゃんは唇を噛んでそっぽを向いた。
Wish Upon a Star“星に願いを„第三十九話【紅水仙】
火花。それは、圧倒的な火花だった。轟音とともに出されたそれは、私の星屑にぶち当たって、すぐに弾けていく。
「…強いっ!」
「なかなか…やる……のね…」
お互いが肩で息をする。周囲の酸素が二酸化炭素に変わっていくのがわかる。だけどまだ戦いは始まったばかり…そんななか、一人ずっと絶望したかのような顔つきの人がいた。
「エメ…ラ?なんで…そんな……魔法………ッ!」
「?何を言っているのね、ライラ。私の魔法は、どんなものも焼き付くす炎なのね。」
「ちがう!」
上ずった声で、ライラさんは叫んだ。
「あなたは、花を咲かせる魔法だったはずよ。草木を育てる魔法だったはずよ。優しいあなたらしい…みんなを笑顔にする魔法だったはずよ…!なのに…なんで……。」
「五月蠅いのね。」
感情的な声を上げるライラさんとは対に、エメラさんは冷たく言い放った。
「優しいだけじゃ、守れない。笑顔にするだけじゃ、助けられない。…そんな魔法なんて、クソくらえなのね……。」
「でも、だからってこんなことをしなくたっていいじゃない!あなたの家族だって、火事のせいで…」
「黙ってよ!!」
また、大きな火が舞い散る。
ってヤバ、防ぎきれない!このままじゃ、ライラさんの所に…。
「キャアッ!!」
「ライラさん!!!」
「さっきからなんの話してるかわかんないだが…。」
「え、嘘でしょ…。」
「嘘じゃねぇよ。」
「な、なんなの。なんなのね!?」
「なんでもないよ。ただ、王女様守ったってだけ。」
その光景は、なんとも奇妙だった。宙に浮いているカイがライラさんを抱えている。夜空に浮かぶ満月をスポットライト代わりに、優しそうに笑う彼の横顔は、まるで………
「…ええ、そうですね。」
告白直前のようだった。